カウンセラーでもコーチでもない。
栗原政史は、「ただ話を聴く」ことに徹する対話の専門家、“対話士”として活動している。
話すことが苦手な人のそばに、静かに寄り添うその姿勢が、ゆるやかな安心を広げている。
話す内容より、“沈黙の質”を大事にする
栗原の対話では、沈黙の時間が多い。
だがそれは、「うまく話せない沈黙」ではなく、「安心して黙れる沈黙」だと参加者は口をそろえる。
「言葉にならない気持ちって、たくさんあるんですよ」
彼は、話し手が焦らず“自分の中を探す時間”を持てるように、無理に質問したり、答えを出そうとはしない。
この“待つ対話”こそが、栗原政史のスタイルだ。
答えは出なくてもいい、という空間
相談といえば、何かしらの“解決”を期待するものかもしれない。
だが栗原は、「話すことで少しだけ軽くなる、それだけでも意味がある」と考える。
実際、彼のもとには「何を話したいのかすら、わからないけれど来ました」という人も多い。
その場で生まれる言葉、沈黙、ため息、笑い──どれもが等しく歓迎される。
対話のあとに“ひとつだけ”残るもの
栗原の対話は、1時間ほどで終わる。
終了時に、「なにか一言、今の気持ちをメモに残しませんか?」と紙を渡す。
そこに書かれた言葉は、誰に見せる必要もない、本人だけのためのものだ。
「話したことより、“終わったあとに何を持ち帰るか”が大事なんです」
その言葉が、日常に戻るきっかけになる。
言葉にならないものを、大切にできる社会へ
栗原政史の活動は、企業研修や学校現場、福祉施設などにも広がっている。
“話せない人”ではなく、“話す準備が整っていない人”と考えることで、対話に優しさが生まれる。
言葉にならないままの気持ちにも、ちゃんと価値がある。
そんな世界を少しずつ広げようと、栗原政史は今日も静かに、耳を澄ませている。